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6024(60歳で24本の歯を残す)運動事業

公益社団法人江戸川区歯科医師会は、歯科医療に関する公益法人として、単独の医療機関のみではできない区民の皆さんへの歯科健康事業を行うため独自の「6024運動」を推進していきます。

1.健康文化都市 えどがわ ~ 住民に望まれる施策

健康増進法が施行され、健康日本21と称される健康施策が進められています。
過去からの健康作りに対する考えが一新され、歯科の分野が取り入れられました。
歯科医療に関する公益法人として、単独の医療機関のみではできない区民への歯科健康事業を行う立場の公益社団法人江戸川区歯科医師会としては、8020と言う目先の遠い目標も大切ですが、それよりも身近でその後の老年期に続く60歳での歯科健康目標として6024をあげ、事業計画を考えます。

江戸川区は平均年齢39.7歳とかなり若い状態です。しかしながら、高齢化は進行し、その対策を行う必要があります。長引く不況の中、区民が望んでいる事は、何よりも健康で長生きできる事です。江戸川区は現在、若い世代中心の住民層、将来の高齢化は避けられません。
将来への住民の不安は経済的な面よりも、高齢化や健康に対する事が、まず上位との結果があります。(表1)
高齢化に伴い、現在約18%(約5人に1人)老齢人口が将来的に30%(約3人に1人)を上回る可能性が高いことはご存じだと思います。(図1)
長寿社会とは、単なる長命ではなく、健康で長生きする事に意味があり、居宅療養管理システムを導入した長野県は今や全国一の長寿県となっています。(表2)
安直に施設に入らず、子や孫たちのいる温かい家庭の中で過ごす老後。そのためには老年期を迎える前に自分の健康を考える意識を持ち、実践し、健常であることが必要です。

表1 今後推進して欲しい施策
(平成14年江戸川区世論調査より)
1位 高齢者対策 42.0%
2位 保健・健康づくり 23.6%
3位 景気・物価対策 20.7%
4位 交通網の整備 19.4%
5位 環境保全・公害対策 17.8%
6位 子育て対策 15.9%
7位 学校教育の充実 14.8%
8位 防災対策 13.3%
9位 リサイクル事業 42.0%
10位 住宅対策 11.9%
表2 平均寿命
(厚生労働省平成12年度統計より)
男性 女性
江戸川区 77.0歳 83.6歳
東京都 78.0歳 84.4歳
全国 77.7歳 84.6歳
長野県 78.9歳 85.2歳
図1 65歳以上人工割合の推移:中位・高位・低位
(国立社会保障・人工問題研究所より)

2.医療提供の転換
治療(cure)から予防(care)へ、ADL(日常生活動作)からQOL(生活の質)へ

(図2)

 国民所得は長引く構造不況で低迷を続け、医療費、特に老人医療費はこのままだと伸び続け、健康政策は破綻を迎える可能性があります。(図2)
お金のかかる医療は、健康であればかからないのが当たり前です。
しかし、現在の健康保険制度は疾病保険であり、健康診断などは対象外となっています。
今後の健康政策を考えるには、「早期発見、早期治療」も大切ですが、その前に健康であるための啓蒙活動を始めとした「早期教育、早期予防」を考え、対処することが重要と考えます。
良い健康政策とは、住民の生涯にわたるQOL(生活の質)の向上につながるものである事が要求されます。それは病気にかかる前に、かからないようにする事を個々の住民が認識している必要があります。
しかしながら、長い人生の中にはライフステージがあり、それぞれに重要視する事が変化し、健康に対する意識を維持するには、継続した健康に対する啓蒙、教育が不可欠です。
生涯にわたる楽しみとして「おいしく食べる」事と考える人は多いのではないでしょうか?
歯科の高齢者に対する健康への寄与には様々なことが分かってきています。
食べる事、つまり咬合咀嚼(咬む)そして嚥下(飲み込む)能力の低下は、将来的な誤嚥性肺炎という危険な疾病にもつながります。話すこと(コミュニケーション能力の低下)にも影響し、老人性の痴呆にも影響する事が分かっています(厚生省研究より)。8020達成者と非達成者を比べた調査では身体の自由度が異なる事も示されています(杉並区調査)。8020達成者と非達成者では医療費が20%以上少ない、特に一人あたりの医療費の高いリハビリテーション科や呼吸器外科などではその傾向が強いという調査結果もあります(兵庫県調査)。その他、口の中の細菌にる様々な全身への影響が示唆されています。(図3、表3)

(図3)歯性病巣感染
表3 口腔状態が全身に及ぼす影響
口腔感染症から
・誤嚥性肺炎
・心疾患
・糖尿病
・出産時の体重減少
歯の喪失から
・QOLの低下

3.残存歯数 ~ 8020の達成とその前に必要な6024の達成

適正な義歯(入れ歯)の装着という事もありますが、その維持には自分の歯以上の苦労が必要となりますし、自分の歯で咬む事に比べるとその機能が劣る事は明白です。

80歳での1人平均現在歯数(平成11年)は8.21本、80歳で自分の歯を20歯本以上有る者の割合は、15.25%と推定されています。8020の達成は容易ではありませんが、今後の努力によって達成可能な目標です。

(図4)

(図5)

(図6)1991年WHOより

4.生活習慣病である歯の疾患への対応

歯の2大疾患はう蝕(むし歯)と歯周疾患で、歯を失う原因の約9割を占めます。特に50代と60代では原因の約5割を歯周疾患が占めています。 生活習慣病を代表するのは、高血圧、糖尿病、高脂血症、高尿酸血症、悪性新生物であると言われています。しかし、最近では骨粗鬆症や歯周疾患の有病率は極めて高く、高齢者のQOL向上のための対策に欠かせない事から関心が高まっている事は周知の通りです。 歯周疾患(歯肉炎・歯槽膿漏)、またう蝕(むし歯)も同じ生活習慣から起こる発症率の高い疾患なのです。 歯周疾患とう蝕は外来性細菌による感染症である事がわかっておりますが、抗生物質で対応できる浮遊細菌と異なり、機械的な除去が必要な細菌群によって起こります(バイオフィルム感染症)。また、それら口の中の細菌は将来的な誤嚥性肺炎の原因ともなり注意が必要です。 むし歯に対する歯質の抵抗性をあげるフッ素は有名ですが、適切な歯ブラシや歯間清掃器具による細菌の除去が不可欠です。むし歯や歯周疾患の原因となる細菌には歯ブラシ等で除去できる歯こう(プラーク)だけでなく、それでは取る事の出来ない“頑固な歯こう”や“歯石”があり、定期的な“健診”に加え、プロの手による機械的な除去(歯石取り、PMTC)が必要です。しかも早期から開始すれば疾患への罹患がほとんど防ぐ事ができます。

誤嚥(ごえん)性肺炎とは

日本人の肺炎による死亡率は、死因別に見て第4位です。その内、92%が65歳以上の高齢者で70歳を越えると急に増加します。(加齢によるものではなく、種々の疾患によるためと考えられます。)えん下機能(飲みこみ)が悪くなり、咳の反射が障害されていると、唾液、飲食物、逆流した胃の内容物が気道(肺のほう)に入り吸い込まれてしまう。もっとも注意するべき点は、不顕性誤えん(はっきりした“むせ”などの症状がないまま起こる誤えん)です。これは、唾液や逆流した胃内容物を眠っている間に少しずつ気道に吸い込んで起こすものです。口腔ケアにより高齢者の肺炎を予防することが大切です。

図7 死因別死亡確率(主要死因) 厚労省14年資料より

5.健康増進法 ~ 健康日本21、各ライフステージへの対応

「健康日本21」2010到達の目安として「6.歯科の健康」では以下の通りです。



○幼児期のう蝕予防

6.1 う歯のない幼児の増加
[う歯のない幼児の割合(3歳)] 現状* 2010年
6.1a 全国平均 59.5% 80%以上

*:平成10年度3歳児歯科健康診査結果

6.2 フッ化物歯面塗布を受けたことのある幼児の増加
[受けたことのある幼児の割合(3歳)] 現状* 2010年
6.2a 全国平均 39.6% 50%以上

*:平成5年歯科疾患実態調査

6.3 間食として甘味食品・飲料を頻回飲食する習慣のある幼児の減少
[習慣のある幼児の割合(1歳6ヶ月児)] 現状*,** 010年**
6.3a 全国平均 29.9%

*:参考値、1日3回以上の間食をする1歳6か月児の割合(久保田らによる調査、平成3年)

**:平成12年度中に調査し、設定する
用語の説明  頻回飲食:間食として1日3回以上の飲食


○学齢期のう蝕予防

6.4 一人平均う歯数の減少
[1人平均う歯数(12歳)] 現状* 2010年
6.4a 全国平均 2.9歯 1歯以下

*:平成11年学校保健統計調査

用語の説明 一人平均う歯数:一人あたり平均の未治療のう歯、う蝕により失った歯、治療済のう歯の合計(DMF歯数)

6.5 フッ化物配合歯磨剤の使用の増加
[使用している人の割合] 現状* 2010年
6.5a 全国平均 45.6% 90%以上

*:参考値、児童のフッ化物配合歯磨剤使用率(荒川らによる調査、平成3年)

6.6 個別的な歯口清掃指導を受ける人の増加
[過去1年間に受けたことのある人の割合] 現状*,** 010年**
6.6a 全国平均 12.8% 30%以上

*:参考値、平成5年保健福祉動向調査(15~24歳)

用語の説明 個別的な歯口清掃指導:歯科医師、歯科衛生士により個人の口の中の状態に基づいて行われる歯磨き指導


○成人期の歯周病予防

6.7 進行した歯周炎の減少
[有する人の割合] 現状* 2010年**
6.7a 40歳 32% 22%以下
6.7b 50歳 46.9% 33%以下

*:参考値、平成9~10年富士宮市モデル事業報告

**:3割以上の減少

用語の説明 進行した歯周炎:歯周疾患の検査であるCPI検査で4mm以上の深い歯周ポケットのあるもの

6.8 歯間部清掃用器具の使用の増加
[使用している人の割合] 現状* 2010年
6.8a 40歳(35~44歳) 19.3% 50%以上
6.8b 50歳(45~54歳) 17.8% 50%以上

*:平成5年保健福祉動向調査

用語の説明 歯間部清掃用器具:歯と歯の間を清掃するための専用器具(デンタルフロス、歯間ブラシ等)


6.9 喫煙が及ぼす健康影響についての十分な知識の普及(4.たばこ参照)


6.10 禁煙支援プログラムの普及(4.たばこ参照)


○歯の喪失防止

6.11 80歳で20歯以上、60歳で24歯以上の自分の歯を有する人の増加
[自分の歯を有する人の割合] 現状* 2010年
6.11a 80歳(75~84歳)で20歯以上 11.5% 20%以上

*:平成5年歯科疾患実態調査

6.12 定期的な歯石除去や歯面清掃を受ける人の増加
[過去1年間に受けた人の割合] 現状* 2010年
6.12a 60歳(55~64歳) 15.9% 30%以上

*:参考値、過去1年間に歯石除去や歯面清掃を受けた人の割合、平成4年寝屋川市調査

6.13 定期的な歯科検診の受診者の増加
[過去1年間に受けた人の割合] 現状*,** 010年**
6.13a 60歳(55~64歳) 16.4% 30%以上

*:平成5年保健福祉動向調査

6.まとめ 効果的な事業の展開

平均年齢が若い江戸川区にもかかわらず、区民が、今後、推進して欲しい施策の1位、2位は、高齢者対策(42%)、保健・健康づくり(23.6%)であります。 しかし、我国の医療費、特に老人医療費はこのままだと伸びつづけ健康政策は破綻を迎える可能性が示唆されているのです。 ならば、病気になってからの政策と同時に、健康であるための啓蒙活動を中心とした「早期教育、早期予防」に力を注ぐべきではないでしょうか。 長い人生のライフステージには、それぞれ重要視することは変化しますが、生涯にわたる楽しみとして「おいしく食べること」は不変であると思われます。その為、歯を含めた口腔内の健康は、各年代において共通の「教育・予防」可能な項目であると思われます。また、歯周疾患の他の疾患への影響への関心も高まっているのが現状です。 そこで江戸川区独自の『6024運動』を掲げ節目健診や「教育・予防」の啓蒙活動を主とした活動を行う事になりました。 健康に人生を終えるための『8020運動』の前段階として、健康な老後を送るための『6024運動』。60歳は還暦という節目であり、平均的な退職年齢でもあり、又、老後を考える時期でもあります。それまでの節目健診には、足を運べなかった人も、60歳という人生の節目に、健康な老後を考える時期にあたると思われます。 健康な老後をおくる為の啓蒙活動として、定期的な講演活動が有意義であり個人が各診療所で得る予防知識は勿論重要ですが、地域ぐるみの意識の向上の為には、口腔保健センターを中心としたサポートセンターなどを利用した、大きなキャパシティでの予防知識の習得が有意義と思われます。実際、江戸川区歯科医師会設立30周年記念事業として開催した記念講演は、想像以上に区民のみなさんの反応が良く、継続を望む声も戴くことができました。 健康である為の啓蒙活動としての講演活動は、同時に江戸川区を「文化都市」としても発展させるのではないでしょうか。 『心ゆたかに健康な毎日を送るために、健康な老後をおくるために』区民の健康向上に、江戸川区の『健康文化都市』への発展のために、私たちは「6024運動」を展開していきます。

公益社団法人江戸川区歯科医師会は、各医療機関で責任をもって地域医療を行う専門家の団体です。江戸川区行政と今後も良好な緊張関係を保ち、協力しあい、さらなる住民の健康のための活動を行っていきたいと考えます。